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アイ・ホーム家づくりブログ 我が輩はごい犬ばん

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「幻の欅(ケヤキ)」

 私の友人に欅の名木店をしている者がいる。
東京の新木場に「星野名木店」という屋号で二代目となる。大学時代の同級生なのだが、東京にいる頃は大変お世話になった。
なにしろ、田舎から出て来た者にとっては、泊まれば、食事も御馳走になれるし、住まいは日本堤で、大好きな江戸町情緒が味わえるとあって何度も御邪魔したものだった。
 その友人に11年程前、久し振りに会った時、私が建築の仕事をしているのならと、知り合いの名木店に連れて行ってもらった。そうして、二度とはお目にかかれないから、よく拝んで行けと、欅の無節の一枚板を見せてもらった。厚みは10センチ程で、畳2枚程度の大物だった。聞けば、同じ板が他に1枚あったが、然る大きな宗教法人に大金で引き取られたとのことであった。
 友人の父は生前、欅を求めて日本中を旅したとのこと。宮崎では都城に良い物があったようで、とにかく目に留まる良木に出会えば、所有者と交渉することにしていたとのこと。
 ある時、長野県の田舎を歩いていたら、大きな水車が目に留まった。それはもう使われてはいなかったが、よく見ると欅で出来ている。所有者に交渉したところ「もう必要はないので、そんなに水車が好きなら、君に差し上げよう」と只(ただ)で譲ってもらったことがあったとか、これは大層儲かったとのことだった。
 今日では名木といっても、木目の魅力に大金を投じる粋人もいなくなり、特別な用途にだけ、その存在を問われるだけのようである。
 先の欅の逸品を所有していた友人の知人は、主に東北地方を捜して歩いていたとのこと。捜しに捜し、遂に、見たこともない欅の大木を発見したとのこと。しかも1本ではなく、4本も。
 それは人の住まなくなった山奥の廃村で、木々に埋もれた鎮守の森に、深い霧の中、残された2匹の狛犬に守られるように立っていたとか。神々しくも荘厳な、その場所に彼は茫然自失。「それで、その欅、どうした。」と問うと、所有者を捜すことも大変な手間だし、第一、これ程見事な4本立ちの欅は「切れない。」とのこと。「いったいそれは何処なの」「一度見てみたい」と言えば、「死ぬまで誰にも教えない」と云う。
 彼の心の中にだけ、この欅の神様はその姿をお見せになったのだろう。「教えない」と答えた時の彼は、遠くを見る目になっていた。

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