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「縁側風景」

 
                                            かぼちゃ
向田邦子の「父の詫び状」という随筆に、記憶に残る縁側の風景がある。
終戦も間際、東京では米軍による空襲も多く、食糧事情も悪化する中、学童疎開が行なわれていた。
向田家では末の男の子が疎開することになった。
 父母はたくさんの葉書を用意し、自宅宛の住所を記して「楽しかったら○」「悲しかったり、ひもじかったら×」「何でもいいから書いてだすんだよ。」と託していた。
疎開当初は、疎開先の土地の方に大切にされていたようで、大きな○が花○になって葉書が届いた。しかし葉書には、そのうち○は小さくなり、△になり、×がたくさん書いて届くようになった。
 夏休みになって、その弟が帰ってくる日がやって来た。
それまで乏しい食卓の為に、大切に育てられて来たカボチャ。そのカボチャを全部収穫して良いとの父の一声で、2人の姉はカボチャを次々に取り上げ、縁側の敷居に大きな順に並べて置いて行き、「ひい、ふう、みい」と数えながら待っていた。
外はだんだん日が暮れて、なかなか弟の帰る様子は見られない。
 当時の「父親」というものは威厳に満ち、「母親」は優しく淑やかな存在であったようで、当日の向田家の父と母も心の中では「未だか、未だか」と思いつつ、「おなかすいた」とか嘆く娘たちに「静かに待つように」と諭すのであった。
 それから更に外が暗くなった頃、庭から弟の声が聞こえた。
その時、この「父」は「母」も裸足で縁から飛び下りて行った。並べてあったカボチャは蹴飛ばされて縁側からころがり落ちたのは言うまでもない。
 一戸建ての住まいならではの、心に残る風景ではなかろうか。

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