日本住宅新聞に寄稿している内容をここでご紹介します。
工務店経営の現場から
【資金編】
私は平成2年の2月に創業しました。この世界に飛び込んでわずか6年目の創業という事で、顧みるに正に冷や汗ものでありました。
創業において、その時の景気や特に住宅着工に関わる国の政策は大きな影響を与えます。折りしも、日本中に吹き荒れたバブルが弾(はじ)けた頃で、1989年の大納会で38,915円のピークを記録した株価は、翌年末には20,000円割れ。私共の受注に大きな影響を与えた地価も、国の総量規制(1990年3月)で銀行融資抑制が行われると、1992年の路線価をピークとして暴落が始まりました。尤も(もっとも)地方において商用地は今少し値上がりを続けていました。
住宅建築業は受注すれば、資材の支払い、外注費の支払いが発生します。まとまった資金を必要としますので、運転資金の確保が重要なポイントとなります。また、建築条件付きの受注ともなれば土地代金の先行確保が必要となり、これまた多額の資金準備を実現しなければなりません。
ともあれ、2代目事業継承者に比して自己資本に乏しいサラリーマン創業者は、開業資金の準備が課題となる。それでは開業準備の為にはどのようなものが、どれくらい必要か気付くところを挙げてみましょう。
<開業資金例>
①事務所家賃②人件費③車両代④ガソリン代⑤備品⑥集客費⑦材料費⑧その他費用
等々、それぞれのケースで異なってきます。こうした費用のうち一部はリースで賄えるものもあるが、諸費用とも入金の遅いこの事業では1年分ぐらいの資金は欲しい。しかしながら先に挙げた資金を満額自己資金で賄うことなど通常不可能です。したがって多くが借入金、手形等を用いた資金繰りを行わなければならない。以下創業時の借入れは、誠に困難なもので、実績、手持資金、信用等無い無い尽くしでどのように資金調達を行ったら良いのか、一般的な話として記してみましょう。
「自分の資産を洗い直す」
財産といえば、預金、有価証券といった「お金」とは別に、土地、建物といった不動産があります。この場合、担保価値の高い土地でなければ銀行は見向きもしません。
私の場合、自己資金は400万円、父から400万円を借り当座の運転資金を用意。次いで、スタートに当たり実家と妻の父より担保用の不動産を用意してもらい、5,000万円の根抵当権による借入れを可能と出来たことは正に幸運でした。とは申せ、親子といえども、おいそれとは自分の土地建物を担保に出してはくれません。それまでの人間関係、人生観も親子共々大切な要素となります。
私の父は材木屋のサラリーマンを経て独立、製材、チップ等を取り扱うも不況により閉店。創業したいので支援して欲しいと申し出た私に、「お前は何歳になったのか」と改めて問うた時の父の目を思い出します。一人の男として私を値踏みしていた目でした。私が「39歳だ」というと、暫く間があって、「分かった。幾らいる」と言ってくれ、私は「そんなにお金は持って無さそうだが、有れば200万円ぐらいか」と判断し、「200万円」と言った。その折、少し父の物言いに余裕を感じたので、この親不孝者はさっそく「車も新しくしたいので、後200万円」と付け加えた。父の顔に痛みが走るのが見えたが、父は「分かった」と応えた。賢明な母はその時すぐ横にいて直ちに異を唱えたが、今は無き最愛の父親は「出してやれ」と厳しく命じた。お金も、土地の権利証もその時以来私の手にあります。
事は目の前の自己資金、担保物件の確保だけではなく、金融機関のお眼鏡に合った経営者自身の能力、スタッフ力も重要な融資要件です。
独立以前のキャリアは大切なポイントであり、財産として値踏みされることになります。
取引先である資材店、各職方等の支援が受けられるのか等々、いわゆる一人前として住宅建築業を担って行ける能力が問われることになり、これだけは他人様が評価する財産価値となります。
(次回に続く)