ツタンカーメン王の玉座には左右の肘(ひじ)置きに、獅子(ライオン)の彫(ほ)り物が施(ほどこ)されています。きっと王様をお守りする魔除(まよ)けの役割を担っていたのでしょう。
我が家には、かって2匹のミニチュアダックスが飼われておりました。
名前は、オスがレオ。
メスがモッコちゃん。
朝起きて居間に行くと、2匹が大歓迎で駆けて来ます。
そうして、いつもそうすることを予想してソファに飛び乗ると、後からそこにすわる私の左右にピッタリとくっついて、まるでエジプトの玉座のように私の両肘の下に鎮座します。犬達は尾っぽをブンブン振って、やがて静かになると、改めて今日という日が始まることを確信できるのでした。その素晴らしい毎朝の到来を、まるで若き日のツタンカーメン王のように満ちたりた気分で迎えたものでした。
温かなプニュピニュのミニチュア君たちを両肘の下に置きながら、両の手で彼らの首や頭、やわらかな耳を撫で、触(さ)わりながら、その命の温かさにいやされ至福の時を過ごしたものです。
2年程前でした。オスのレオちゃんが病で世を去ると、この毎朝の楽しい玉座の習慣はいつの間にかなくなってしまいました。
それでも、或る時気が付いたことがあるのです。
ソファに据る私のそばには、残されたもう一匹のワンチャン「モッコ」が今でもやって来て、くっついて座ります。私はソファの肘置きに右手を置いて、モッコちゃんを左手でなでようとするのですが、決まってモッコちゃんは右側の私とソファの肘置きの間に体をねじ込んで来ます。私は左に少し移動することで、窮屈なこの右側の空間を広げ、
ゆっくりとモッコちゃんが据われるよう左に移動していました。いつもそうだった?
そうして、ハッと気がついたのでした。そうか見えないけれど、今は居ないレオちゃんがいつも定位置とした左の肘置きの場所にやって来るからモッコは右に移動しているのかなと。
それで、見えない、居ない、ことは分かっていても、左手で来てるかも知れないあの世のレオ、あの世の獅子となったレオをなでてみたことでした。
あなたも生きた獅子を飼って、王様気分を味わってみませんか。