父の仕事が木材商であったことから、仕事場である事務所は、広い土場に木造で建てられていた。
見たところどこも問題ない事務所でしたが、近々壊されるとのことを聞き、その理由が「白蟻」ということで、子供ながら、見えない敵に恐れを抱いたことがありました。
その日、独り、事務所で遊んでいた時、ふとまだ見ぬ敵のことを探るつもりで、床に耳を当てたところ、「ザアーザアー」という海鳴りのような音がそこから響いて来たのでした。今日のF分の一のゆらぎとも言える不思議な波のような音なのです。それこそが、白蟻の家を食べ、集団で活動する破壊の波音だったのです。