月の世界
「博多湾を一望する三十七階のスカイガーデン。遠くを渡る船や能古島
(のこのしま)に沈む夕日、そして百道の夜景。毎日違う眺望を鳥のよう
に自由に眺めるうちに心までおおらかに解き放たれていくようです。」
これは福岡に建築中のマンションのパンフレットである。
タイトルは「日々変わる博多湾と島々の景色を鳥の目で眺める毎日」となっている。
このコピーライター氏の目にも、この高層マンションに住む人は人類から鳥類へ進化したものと受け取られているようだ。
遠い未来、人は鳥のように翼を持つようになるのかも知れない。
この主役たる三棟の超高層マンションは、三角形の各頂点部分に配置され並び立つ計画だ。見ようによっては、スペインのサグラダ・ファミリアを思わせるペンシル状の縦長のビルが中空に並び立つ様がCGの画面でリアルに再現されている。
更に、コピーライター氏は歌うように続ける。
「アイランドタワースカイクラブ。この優美で斬新なスタイルは、高層階でも自然を身近に感じることの出来る住まい、どの住戸も開放感溢れる眺めを楽しめる空間を実現するためにたどりついた先端的建築技術の結論。」だそうだ。尚更に「人間と自然がおたがいを尊重し合い、共に生きて行こうという試みを模索しながら、二十一世紀のあるべき街づくりに挑戦する地、アイランドシティー。」と続ける。
そうして、このマンション群には四百九戸の住まいが誕生するのだという。
パンフレットを子細に見ると、中空の庭と呼して、三・十五・二十六・三十六の各階にスカイガーデンなるお盆状の広場がこの三棟のビルを結んで配置されている。
この頃出現する大型台風に晒されたら、各ガーデンの二十本ばかりの小経木は吹き飛ばされそうに思えるが、どうなのだろうか。
ともあれ、この各ガーデンには各々それらしき命名がなされており「大地の庭」「爽風の庭」「悠景の庭」「清光の庭」とある。
しかし、サッカー、野球はきっとご法度に違いない。こぼれ落ちた「球」は、一変、危険球となる恐れがあるため、子供には躾が必要となる。そう言えば、鳥はサッカーも野球もしないので心配はいらないのかも。