測位しました
その時私の大切な携帯電話は、地図上に存在を表示された。「ええ?」「そんな馬鹿な?」
地図は拡大された。宮田川の流れの中程にそれは在った。「ということは、確かに鍵をかけたはずの自宅へ賊が侵入し、ついでに私の携帯電話を持ち去ったが逃避行の道すがら川の中へ電話機を投げ捨てたのか?」程なく、車は現場に到着した。
見ると一人の老人が堤防沿いを散歩している。見晴らしの良い所故、この人物がこの一件に関わる重要参考人と思われる。自然、観察眼は厳しいものとならざるを得ない。足早に近づき、ともあれ既に位置図に示された川中を見ると満々の水である。
やはり事情につき、職務質問はやむを得ない、しかし誤認逮捕だけは避けねばならない。
「このへんで、携帯電話は見かけませんでしたか?」
「ウンニャ」
でしょうね、何処から見ても杖をついて健康の為に散歩しているだけの大善良な市民様。足を棒にして川沿いを歩き、自宅に戻ると、それは「在った」。
測位システムの精度では星(☆)の数でその誤差が示されていた。曰く、星一つだったので300m以上の精度とのこと。「ウソー」ではない「1000m」であれば300m以上には違いなく正解であった。
今は電話の位置が度々問題となるが、そのうち私自身の位置が問題となるころにはもっと精度をあげてもらわないと、川にはまってお陀仏になるかもしれない。それはそれ程遠い将来とは思えない。
「測位しました」
「まったく、あのおっさん何処へ行っちまったんだか」