最後のくろねこ代理店
「しばらくお休みさせて戴きます。店主」
この看板が出されて、数日が過ぎた。
その日、店に隣接の広い硝子窓にお客らしい数人の顔があった。
「早く元気になって店を開けてもらわんと。」
物につかまれば立つことはできる。だから店主は立ち上がって、動きづらい足を動かそうと試み、家族の励ましにも応えようと頑張った。
結果、腸閉塞となって入院。その後症状は回復したが、元より開店はムリ。
くろねこのおじさんがやって来て、「このお店が小売店の中で最後の代理店だった。何十年もお世話になりました。」と言って、「お祖母ちゃん早く元気になるといいですね。」と去って行った。
思えば、この代理店から様々な物が日本各地に送られていた。
春になると、竹ノ子や近くの海で採れた海草。夏には、トマトやスイカ。お年寄り達が、遠方にいる娘や息子達に地の物を荷造りして送っていた。
店主はその娘や息子達の顔も名前も知っていたので、荷主との会話もはずんだことだろう。
一見強持ての青年がやって来て、この店主にまみえると、優しく「おばちゃん」と言う。「あら、何しちょっとね。元気ね。」
最後のくろねこ代理店は平成23年12月31日に閉店しました。