年を経て回りを見ると、あれ程共に育った友達がどこにも居ない。転校や進学、就職、転勤で、生活の場もそれぞれに移り変わって今である。
ようやく数える程の旧友は、思い出せるが、その人達と、特別に会って話すこともなく、皆、それぞれの暮しに忙しいので交流はない。
散髪屋のS君だけは、月に一度会って、散髪の時間程話をする。
店のある町に、住み続けているS君に聞けば、町内に住む旧友達の様子はなんとなく分かる。
「誰だったかな~」
「そんなやつ居たっけ!?」
などと話が弾む。
「ところで、俺たちの話も誰かがすることあるのかな」
「あるもんか、あってもそこは『いない、いないバー』だよ」
年に12回、10年で120回。50年で6000回S君とは会って6000時間は話したことになる。
散髪にだけ行くのではなく、旧友の消息や、季節の食べ物、人生の苦楽を何の遠慮もなく話せる「贅沢な時間」を持てる散髪屋さん。
「あったらいいでしょう!!」
私にはS君の散髪屋さんがアル、アル、アルよ!!