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御当地ソング

御当地ソング

 日本中に様々な御当地ソングがある。

歌詞やメロディーに「御当地」に相応しい思いが込められている。

古くなるが、「柳ヶ瀬ブルース」とか「長崎ブルース」とか、日本中にこうしたヒット曲が流れていたことがあった。

 先の震災を経て、多くの人の胸にしみた「故郷」の名曲は、ご当地を越えて、さしずめ日本人の原点とも言うべきソウルソングかもしれない。

 もう20年程も前だろうか、東京にMホームが展開するニュータウンの見学に行ったことがある。マンションと戸建区域の組合わせの大規模な開発となっていた。

 周囲には昔からの街が広がっており、一本の鉄道を挟んで明るいアースカラーを基調にしたニュータウンと対峙する形になっていた。

 遠くから眺めると、古くからの街は黒ずんで、無秩序で、空の色まで少し暗く見えるような気がした。

それ程に、ニュータウンは明るくて、人工的に統一された「ハッピィーカラー」に染め上げられており、短期間で完売したというだけあって、見上げる空の色も、オーロラの光を浴びているように奇妙な幸福感を醸し出していた。

 目の前に突然、車イスを押す若い女性が現れた。「夢の街」に伸びる道は考え抜かれており、味気ない直線ではなく、ゆっくりとカーブしていた。色も黒いアスファルトではなく、エンジ色の明るい道を、その車イスは進んでゆく。

 車イスには、この頃珍しい着物を召された老人が、きっと女性の祖母の方ではなかろうか、少し窮屈そうに腰かけておられた。エンジ色の明るい道は、初夏の日差しに眩しく、車イスの2人がくっきりと目に飛び込んで来る。「夢の街」に暮らしはじめた家族のようだ。

 2人は無表情で、不思議なことに、完売したという「夢の街」に昼間の人影はなく、遠くでマンションの売り出し用に流されるBGMが聞こえていた。

 「おや、何かヘン」。遠去かるニュータウンを見やりながら車で帰途についたが、その道すがらようやくその訳に気付くことになったのは、街を二分する鉄道の踏切を渡った時だった。

 踏切の近くに小さなバス停があって、そこに、車イスの人がいた。

「今日は病院?」「いや、買い物」そんな会話が聞こえて来た。

 古びた街には、顔の見える関係と、街と共に時を過ごして来た、思い出がいっぱいということだ。

 ハッピィーカラーのニュータウンには御当地ソングはない。

でも、古びた街にはどんな街にも、○○ブルースといった、御当地ソングがあってもおかしくないような気がしてならない。

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